2013年の初め。みんなのベルマーレの収録だったと記憶している。
その日のゲストだった曺貴裁(チョウ・キジェ)監督には同様の質問がいくつも投げかけられていた。
「どうして永木がキャプテンなんですか?」
永木亮太はただのサッカー選手だった
永木亮太。2010年特別指定選手としてベルマーレに。その翌年プロ契約。
見た印象。確かに上手い。いい選手だとも思う。だけどこれは・・・。
確かに永木はいい選手だった。しかしプレゼントパスが多くそれは致命的な状況でもしばしば起こる現象だった。
今でこそフリーキックの名手と言われるが、とんでもない。
当初はふかしまくっていた。
なにより性格の良さや、優しさからくるメンタル面。これは心配だった。
年下のパートナーであるハン・グギョン(カタールSC:韓国代表)の方が力が上。
これが僕の偽りなき評価だった。
「どうして永木がキャプテンなんですか?」もっともな質問だったと今でも思う。
リーダーシップを取っていく選手にはとても見えなかったからだ。
しかしチョウ監督は言った。
「僕はね。その選手の成長が、チームの成長につながる選手がキャプテンをやるべきだと思っているんですよ。」
永木亮太のなにかが変わった2013年
2013年。僕はある試合を鮮明に覚えている。埼玉スタジアムでの浦和レッズ戦。
なにもできずに永木亮太は交代した。仕方ないと思った。この日のパフォーマンスはとても納得できるとは言えないものだったからだ。
だからこそ覚えているのだろうかもしれない。2013年。第27節。ホームでの浦和レッズ戦のことを。
平塚で行われた浦和レッズ戦。残留は厳しくなりつつあった湘南ベルマーレだったが前回なにもできなかった浦和レッズ相手に真っ向勝負で挑んでいた。
そして永木亮太。・・・なにかが違うような気がする。
いつも1テンポ遅くて出せない縦へのボール。だけどなにか意図があるような。
いつもと同じように見えるプレーがだけどなにか違うような。
バックスタンドからは「1テンポ遅いよ」といつも言われているような声が聞こえたし、僕も実際そう思った。
だけどそれでも永木のなにかが変わっているような。そんな印象を受けたのだった。
誰もが認めるキャプテンとなった2014年
2014年の開幕戦。そこにいた永木はかつて僕が懸念していたような選手ではなかった。周囲を引っ張るパワー。プレー1つ1つの重み。
永木は変わった。これはすごい選手になる。初めてそう感じた瞬間だった。
変化はプレー以外にも現れていた。自分のことだけではなく、チームのことを。
なによりベルマーレのクラブのことを発言するようになった。
「今後、ベルマーレがどうなっていくかは自分たちに懸かっている。」
「もっと大きなクラブに」何度も永木が語っていた言葉だ。
2014年J2。そして2015年のJ1。
「どうして永木がキャプテンなんですか?」もはやこんな事を聞く人間はいなかった。
永木亮太以外に湘南ベルマーレのキャプテンはいなかったからだ。
キャプテンマークを継ぐ男
2016年。永木亮太は湘南ベルマーレを離れることになった。
選手の成長にクラブが追いついていない。だから別れることになる。
それは分かっていてもなかなか切り替えられる事ではない。
だけどサッカー選手は一瞬だけ輝く花火のようなもので、だからこそ後悔のないように決断した方がいいとも思っている。それでも割り切れるものではないが。
・・・
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「その選手の成長が、チームの成長につながる選手」
次のキャプテンマークを巻く選手もそういう選手なのだろう。
思ってもみなかった選手になるかも知れない。誰がキャプテンマークを巻くのかは分からない。だけど僕は彼しかいないと思っている。
俺らの夢が近づくように。
「その選手の成長が、チームの成長につながる選手」だと信じている。