2018/7/22。
ノエビアスタジアムビジター席。ゴール裏。
意気上がる緑と青の軍団を横目にどちらのクラブのサポーターかはっきりとわからない、そんなような人間が次々と家路に着いていた。
「あらら・・・。もったいない。君たちは今、日本のサッカーの未来を目撃しているというのに。」
イニエスタ目当てのファンよ、がっかりする事はない。君たちは世界に羽ばたく若者たちを目撃したのだから
スタジアムに到着すると既に人!人!人!
溢れんばかりの人。すぐ到着するはずのビジター席の一角に辿り着くのも一苦労だった。
彼らの希望はおそらくアンドレアス・イニエスタ。彼の圧倒的な活躍で神戸勝利。そして「俺はあのイニエスタのデビュー戦をみたぞ。レベルが違ったぞ。」こんな風に語ることだったのかもしれない。
しかし猛暑の中躍動したのはティキタカではなくゴールへ一直線に襲いかかる緑と青の軍団だった。
試合開始早々、暑さなど関係ないとばかりにボールを狩りに行く湘南。
ペースなどまるで無視するかのように次々に相手へ襲いかかっていく。
時に巨人ウェリントンへハイボールを送るがわずか174cmの新鋭坂圭祐がことごとく跳ね返していく。
すると開始10分。完全に相手の弱点を突いたセットプレーでその坂がヘディングシュート。ルーキー坂のJリーグ初ゴールで早くも先制点を決める。
ボールを扱う上手さはもちろん神戸が上。しかしその巧さは、ボールを狩り一直線に前へ向かう強さと速さの前に完全に沈黙していた。
満員のスタジアムで緑と青が躍動する
後半開始早々。元湘南の大槻のクロスからこれも元湘南のウェリントンがボレーシュート。これが最大のピンチ。しかしここをどうにか凌ぎきるとその直後、電光石火のカウンターから若き19歳、齊藤未月がJリーグ初ゴールを決める。
巧さだけではいけない。速さも強さも。湘南のやり方で2-0とさらに神戸を突き放す。
すると65分。ついにスペインの至宝。ティキタカの申し子がピッチに姿を現す。
「ついに出た!」「なんとかしてくれ」「世界のプレーが見られる」
期待。そして大きなざわめき。
「これから何が起こる?」
事実イニエスタのファーストタッチで起こった歓声はなにかを起こすには十分すぎる雰囲気だった。
・・・しかし真夏の決戦。足が止まるはずの終盤戦。
疲労の色が見える神戸を横目に、湘南の強さと速さはさらに加速していった。
ボールが来ないイライラからか時に中盤の底の方にまでポジションを下げるスペインの至宝。しかしその場所でおこなわれたのは・・・緑と青の・・・まさに狩りであった。
2人、3人。二度三度と追い回し追い込み、奪う。そして今度は最短距離でゴールを狩りに行く。
確かにイニエスタは上手い。神戸は強い。だがこの日は湘南が上だ!
相洋の怪物から湘南乃要へ!ついに3-0!
沸騰するアウェイゴール裏!!
パーフェクトだ!!完璧だ!!!強い!!本当に!本当に今日の湘南は強い!
ボールポゼッション率65%対35%。
3-0。
35%の勝利。お前たちは知っていたか!?こういうサッカーもあるということを!!!
俺たちはここにいるぞ!!!お前たちには見えないのか!?日本の未来がここにある!!お前たちは見えなくても俺たちにはもうはっきりと見えているぞ!!
お前たちが今見過ごしているそれは、世界に羽ばたく若者たちの躍動だ!!
試合終了前に帰路に着く人間が目立ち始める。そして僕らは。
勝利の凱歌を上げた。
メディア、マスコミはイニエスタの巧さを伝えたであろう。仕方がない。彼らもまた気がつかぬものなのだから。
しかし二年後に日本でスポーツの祭典が。そして四年後カタールで。
だからこのメンバー表を保管しておくと良い。
そして大いに自慢するといい。
「俺はあのイニエスタのデビュー戦をみたぞ。でもな・・・。それでな・・・。このメンバー表を見てくれよ。」
今はまだ。俺たちだけが知っている。