2016年。
全く無名の選手が湘南ベルマーレの新入団記者会見に現れた。
手には松葉杖を持って。
山根視来のプロサッカー人生は、その始まりからして苦難の連続を予感させるものだった。
偶然に偶然が重なったプロ入り
山根はプロサッカークラブのスカウト網に引っかかった選手ではない。
【ボイス:2017年10月14日】山根視来選手 « 湘南ベルマーレ公式サイト
山根視来のボイスにもあるように
「天皇杯で対戦して、その日に練習参加してくれと言われて、という感じです。他のクラブの練習にも参加していたんですけど、湘南は(2014年に)J2で優勝して、J1で戦っていたときだったので、やっぱりすごく嬉しかったです」
桐陰横浜大学が天皇杯に勝ち進み、そこで偶然湘南ベルマーレと対戦し、対戦後すぐに声をかけられて。
言い方は良くないが「あの日ベルマーレと対戦しなかったらこの子はプロになれなかったんじゃないか?」
そのくらいの偶然が重なっている。僕はそう思った。
事実プロ1シーズン目。山根視来プレーは全く通用しなかったのだ。
2016年。湘南ベルマーレ新体制発表会見。山根視来は腕に松葉杖という痛々しい姿で現れた
全く通用しなかったプロ一年目。
2016年のリーグ戦では出場がなかったが、ナビスコカップで彼のプレーを見ることができた。
ドリブラーという触れ込み。・・・がサイドでボールを受けても、運べないし、抜けない。
連携で躱すこともできない。
縦にも中にも切れ込めないドリブラー。プロサッカー選手にこういう言い方は申し訳ないが、本当に、全く通用していなかったと思う。
チーム自体もこの年は低迷し、屈辱のJ2落ちを味わう事になる。
そして運命を変えたコンバート
2017年終了後に発売されるイヤーDVD。
そこに山根に関してのやり取りが収録されている。
湘南ベルマーレイヤーDVD NONSTOP FOOTBALLの真実 第4章ー2017 共走ー
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山根:ベンチにも入れない。ただ一週間が過ぎていく。つまんないという感覚。でもリーグ戦に絶対出てやるんだと思っていた。
チョウ監督:このタイミングでここをやらせるしかあいつの成功はないと思っていた。
何が自分の得意なプレーか?全く自信を失っていた。
得意のドリブルが封じられたら何もできない。
そんな状態の選手だった・・・。
・・・
・・・
ただあいつは・・・聞く耳があった。必死だった。
山根:これでダメなら終わりなんだと思っていた。開幕戦スタメンで使ってもらって・・・寝付けなかった・・・。
2017年J2。開幕戦の水戸の地で僕は衝撃を受けることになる。
スタメンに高卒ルーキーの杉岡。いや・・・それはまだわかる。あれはすごい選手だ。
しかし・・・CBに山根視来。
あれはFW・・・少なくとも中盤の攻撃的な選手だろう。
概ね納得できるスタメンの中にたった一人異質な存在。
そのくらいセンターバック山根視来は全くもって想像していない事態だった。
だがシーズンが進むにつれその感覚は覆されていくことになる。
たしかに守備はうまくない。フィードもミスをする。
ただ山根は必死に体を張ってチームのために身を投げ出せる選手だった。
苦手であろう守備に懸命に、必死に取り組める選手だった。
そしていつしかプロの舞台で全く通用しなかった彼のドリブルは湘南ベルマーレになくてはならない武器になっていたのだ。
開幕戦水戸。円陣ダッシュでこちら側に走ってくる山根の姿が。全てはここから始まった
センターバックでありながらドリブルで相手を切り裂く山根視来。もう彼はプロで通用しない選手などではなかった
山根視来はプロになれる選手ではなかった
鹿島攻撃陣を抑え、日本代表三竿健斗を置き去りにし、日本一の名門をねじ伏せた彼が当初全く通用しなかった選手だとは想像もつかないだろう。
しかしあえて言おうと思う。
山根視来はプロになれる選手ではなかった。しかし山根視来はそれを覆すことのできる、
謙虚で、努力家で、
そしてなにより、僕の想像なんかを軽々と飛び越えてしまう。
そういう類のサッカー選手だったのだ。